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巣箱

細々とポケモン小説を書き綴るサイトです。

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第一話 始まり

 ある日、一匹のポケモンが険しい崖道を歩いていた。
 クリーム色の体に、背中は紺瑠璃色をしていて、首元にはピンク色をした真ん丸模様がある。時折小さな耳を動かしながら、持っている地図を見て赤い目をしかめている。

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このポケモンの種族名はバクフーンと言う。

右肩には筒状の棒を担いでおり、その先端にはポケットのついた大きな巾着袋が括り付けられている。地図を見ながらその場に佇んで首をかしげている様子を見ると、どうやら道に迷っているみたいだ。

 ぽつんっ。

 バクフーンは鼻先に雫が落ちるのを感じた。そう思った途端、一斉に雨が降り始める。

 地図を見るのを中断して、慌てて雨宿りできる場所を探し始めた。
 丁度崖道の横に、ぽっかりと空いた小さな洞窟があったので、バクフーンはそこで雨宿りをすることにした。

 中に入ると、バクフーンはびしょ濡れになった体を犬の様に振るわせ、水を払い落とした。
 ――雨に降られると動けなくなるのは、炎タイプの宿命だよなぁ
 バクフーンはそう思いながら、ピンク色の模様から炎を出して体を乾かし始めた。同時にその炎で暗かった洞窟内も明るくなる。平らな形をした岩に腰を掛け、持っていた荷物を地面に下した。

「……ん?」
小さな物音がして、バクフーンは顔を上げる。耳を澄ませてみると、荒い呼吸音が聞こえてきた。
「誰か居るのか?」
 声をかけてみたが、返事は無い。
 確かめてみようと洞窟の奥に足を踏み入ると、岩影に隠れて縮こまっているチルットを見つけた。
 バクフーンに気付いたチルットは、怯えて震えだした。よく見ると、チルットは足を怪我している。
「あんた、大丈夫か?」

 チルットの怪我の様子を見ようと、バクフーンは岩を飛び越え近づいた。しかし、チルットは怯えて岩と岩の小さな隙間に隠れてしまった。
「おいおい、そんなに俺が怖いか? それはそれでショックだなぁ」
 どうしようもできず、バクフーンが困り果てていたその時――

「見つけたぞ!!」
 
 洞窟内に大きな声が響き渡り、どこからかナッシーが現れた。
「なんだ?」
 突然の訪問者にバクフーンは声を上げた。

 チルットは、ナッシーを見るや否や、一層怯えだして岩と岩の隙間から飛び出し、その場から逃げ出した。
「あ、待ちやがれ!!」
 ナッシーは飛び立とうとするチルットの翼を踏みつけて、逃げるのを阻止する。
「やっと見つけたぜ~てめぇよくもやってくれたな!」
「ごっごめんなさい、許してください!」
 チルットは震える声でナッシーに謝った。
 
「あん? 許すわけねーだろうが!」
 謝罪の言葉を一切受け付けず、ナッシーはさらにチルットの翼を強く踏みつけた。チルットの甲高い悲鳴が洞窟内に反響し、バクフーンは耳を軽く押さえる。
 
「おいおい、何があったかは知らないが、ちょっとやりすぎなんじゃないか?」
 バクフーンはチルットの様子を見て、思わずナッシーを制した。
「あ? なんだてめぇ、邪魔すんじゃねぇよ。こいつは俺の昼寝を邪魔しやがった、だから今その報いを受けてんだよ」

 説明しながらナッシーは、チルットの翼をさらに強く踏みつける。
「昼寝の邪魔をされたぐらいでそう怒るなよ」
「俺に指図すんのかてめぇ」
 バクフーンの言葉が気に触ったのか、ナッシーは怖い顔をする。
「なんかその顔むかつくな。てめぇも踏み潰してやるよ!!」

 ナッシーは勢い良くバクフーンに向かって体当たりをした。バクフーンはとっさに横にジャンプして攻撃を避け間合いを取る。
「あー嫌だねぇ、今時の輩は切れやすくて。つーかこの顔は元々だっての」
 バクフーンはやれやれと頭を振る。それからナッシーに向かって火炎放射を繰り出した。
「ぎゃぁぁ!!」
  ナッシーは火炎放射を食らい、煙をまき散らしながら地面に倒れた。
「少しは相性を考えてから挑むんだな」

 倒したナッシーは放っておいて、バクフーンはチルットに近づいて踏まれた翼を診てあげた。
「あちゃーこれは応急処置だけじゃだめだな。センターに行かないと駄目だね」
「あ……あのっ、助けてくれて、ありがとう……」
 か細い声でチルットはお礼を言う。
「別に、あっちが勝手に挑んできたから倒しただけだ。礼を言われるようなことはしてないさ。それより応急処置させてくれないか?」
  チルットの返答を待たぬままバクフーンは、荷物を取りに岩の上を歩いて行った。
荷物を持って戻ってくると、さっそく巾着袋から傷薬を出して、怪我をしている翼や足部分に吹き付ける。
 傷がしみて痛いのか、チルットは小さく呻く。
「――あんたさ、本当に昼寝を邪魔しただけなのか? ただ邪魔されただけであんなに怒るとは思わないけどねー」
 チルットの足に包帯を巻きながら、バクフーンはいきなり質問を投げかけた。
「それが、その……木の実と間違えて顔をつっついちゃったんです」
 チルットは恥ずかしそうに答えた。
「木の実と間違えて?」 
「私もびっくりしちゃって、思わず風起しをしてしまったんです。その後はもう逃げることしか頭に無くて……」
「それはまたとんだ災難だったね、けどそれならあいつが怒るのもしょうがないかな――」

 ふと、バクフーンは外の雨脚が弱くなっていくのを感じた。
「雨止んだかな?」
 様子を見に外に出てみると、空の雲の切れ間から日差しが差し込んでいるのが見えた。
「通り雨だったんだな」

 バクフーンは洞窟に戻ると、巾着袋からチーゴの実を取り出して倒れているナッシーの横に置いた。
「ちょっとやりすぎたお詫び。オレンの実じゃないのはご愛嬌ってことで」
気絶しているナッシーに向かってそう言うと、おもむろにチルットを持ち上げた。

「なっなにをするんですか?!」
バクフーンの行動に感心していたチルットは、突然抱えられて慌てふためいた。
「え? センターまで運ぶんだよ。何か問題でも?」
 きょとんとした顔でそう言いながら、バクフーンは荷物を持って洞窟から出る。

「え、いやその自分で歩きますよ! 歩けますし!」
「いや、怪我してんじゃん。動かないほうがいいでしょ」
 
「でも――」
「それより、町がどこにあるか知らないから道を教え欲しいなぁ」

 バクフーンはチルットの言葉を遮って言った。
 チルットは自分でセンターに運ぶと言いながら、その場所を知らないバクフーンを見て唖然とする。
 
「わかりました……。右曲がって崖道上がってください」
 仕方がないのでチルットは、バクフーンに抱えられた状態で近くの町まで案内することにした。
「OK」
 言われたとおりにバクフーンは右に曲がり、崖道を登っていく。



 チルットの案内で、バクフーンは無事に町に着くことができた。
「大きい町だな」
 そびえ立つビル群を見て、バクフーンは呆気に取れている。
「ええ、この辺ではかなり大きい町だと思いますよ」

 町の中心部まで行くと、ポケモンセンターが見えてきた。
「おっここだな」
「あの、ここまで来たら大丈夫ですよ、あとは自分で行けますから」
 チルットは、流石にセンター内まで運ばれるのは悪いと感じていた。
「本当に大丈夫か? 中まで行ってもいいけど」
 チルットを下して、バクフーンは聞く。
「そこまでお世話かけられませんって! ここまで連れてきてくれて、本当にありがとうございます」
 チルットは深々と頭をさげた。
「こちらこそ、案内してくれてありがとう」
 バクフーンは手を振りながらチルットの後姿を見送った。

「……道案内のために運んだなんて言えないよなー」
 バクフーンはそう本音を呟きながら、その場を後にした。

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クロコダイル
性別:
女性
自己紹介:
このブログについての説明は、Aboutをお読みください。
某小説サイトで書いてたものを移転させています。現在書き直し&連載中です。たまに一次創作も書いてます。
なお他小説投稿サイトと違う作品を投稿してます。

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