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巣箱

細々とポケモン小説を書き綴るサイトです。

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ワイダ

ワイダ視点のお話です。

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当然のことだが、整備された43番道路は歩きやすく感じる。草むらや段差地帯は地面がでこぼこしているが、勤務地とは比べものにならないぐらい綺麗な道と言える。

 靴が濡れてなければ、さぞ気持ちいい散歩になっただろう。いっそのこと裸足で歩こうかと思ったが、街に入って裸足の警官がいたと騒がれたら大変だ。すでに俺とすれ違ったトレーナーがわざわざ振り返って訝しんで見てくる。

 何も怪しい格好はしていないはずだと考えていると、目の前に黄色い影が飛び出してきた。最初に目に付いたのは、長い首に顔がついた黒い尻尾。

「キリンリキか」

 名前を呟くと、飛び出してきたキリンリキは俺の姿を一瞥する。それから素知らぬ顔で前を横切り、反対側の木々の方へと走り去った。
 野生のポケモンを前にして無意識に身構えていた俺は、手を下ろして息をついた。こうも相手の反応が違うと、勤務地の野生ポケモンがどれだけ凶暴なのか思い知らされる。虫除けスプレーすら気にせずに、近づいて襲ってくるポケモンたち。
 ひどい時は一歩歩くごとにポケモンとエンカウントする洞窟は、もはやダンジョンだとサカシタが言っていたな。

 その後は何事もなくチョウジタウンの入り口ゲートにたどり着き、俺は少々物足りなさを感じた。街に入ってからはあまり目立たないように42番道路へと続くゲートに向かう。同じ警察官にあったら面倒なことが起きること請け合いだ。早足で町を抜けると、ゲートの中に入った。  気にすることがなくなり、42番道路へ気分高揚と足を進ませようとした時。

「そこの男性。ちょっと待ちなさい」
 警備員に引き止められ、出鼻をくじかれたとは行かないものの気分が削がれた。

「何か?」
 思いのほか威圧的な低い声を出してしまい、しまった思う。予想通り相手は怯んだ様子を見せた。

「ふっ船はもう終了しているよ。今からエンジュシティに行くなら、洞窟を抜けるか水路を渡れるポケモンが必要だよ」

「ご忠告どうも。だけど俺は船に乗るつもりはない。洞窟を抜けてくる知り合いと船着場で待ち合わせをしているんだ」

 当然嘘だ。しかし警備員は納得したのか

「それは失礼した」  
と言ってそれ以上話しかけてくることはなかった。

 気を取り直して42番道路へ。
 踏み込んだ道路は、丁度太陽の光が夕日になる頃合いだったのか、オレンジ色に染まっていた。水路が光を反射し、遠くに見えるエンジュシティの建物も相まってなかなか風情のある光景が広がっている。しかし俺は風景を鑑賞しに来たわけではない。
 視線を外して暗闇になりつつある林の方を向く。ふと、噂のポケモンが出没する場所に来たが、姿や特徴を何も聞いてないことに気づいた。思いつきで行動しすぎたかと少し反省。

 今から情報収集するのは面倒な上に、戻ったら警備員に嘘を言ったことがバレる。そう言えば、トレーナーを襲うという言葉は、裏を返せばトレーナー以外は襲わないという意味に捉えられる。もしそうであれば、噂のポケモンにとって俺は興味を持ってもらえない可能性が高い。手ぶらだからだ。

「……なんか根本的に失敗している?」
 ここでポケモンを持たないことが仇になるとは、誰が想像できただろうか。いや、待てよ。

 常日頃からポケモンを持てとサカシタがうるさかったのは、このことを予見していたからか……?
 そんなことを思案していると、林の方から炎が上がるのが見えた。森に炎タイプのポケモンがいるとは思えない。つまりは――誰かが、戦っている。

 直感的にそう思った俺は位置を確認して林へと走った。草むらをかき分けて進んでいると、前方から何かの叫び声と重低音が響いてきた。

 現場が近いと足を早める。ふいに頭上からの落下物を感じて、とっさに後ろに飛び退いた。

 コツッ。

 地面に軽い音を立てて落ちてきたのは木の実だった。
 頭上を見上げると木の実が豊富になった枝が見える。風か何かで落ちてきたのだろうか。しかし、地面に転がるそれはまだ熟れていない。
 なんだか気になったので拾い上げようと屈んだ瞬間。

 俺は前に飛び込んで転がった。

 続いて地面を叩きつける鈍い音が背後から聞こえる。
 体制を立て直して振り返った先には、目が痛くなるほど真っ赤なポケモンが立っていた。地面に打ち付けた鋏、もとい手の位置はさきほど俺がいた場所だ。

 いつから背後にいたのか。気配は感じなかった。

 俺は立ち上がり、奇襲してきたポケモンを見つめる。
 鋼タイプだが身軽さを感じさせるスラリと伸びた身体。威嚇かそれとも牽制なのか、虫タイプ特有の羽を羽ばたかせている。

 ハッサム。

 脳裏にポケモンの名前が浮かんだ刹那、相手は間合いを詰めてきた。
 しかも、一歩で俺の眼前。すでに腕を振り上げている。

 躱すのは無理だ。ならば――――。

 肩へ向けられた一撃が芯を食らわないよう、攻撃に合わせてしゃがんだ。 だが、驚いたことにハッサムもまた打ち付ける瞬間加速度を下げていた。
 そのせいか、ハッサムの攻撃は当たらず寸止めの形となる。

 ハッサムの方も目を丸くして後ろに跳躍し、俺を探るように見つめてきた。
 俺は立ち上がりながら、先ほどの攻撃が何か察する。

 峰打ち。

 こいつは手加減をして相手の力量を測ろうとしたようだ。 木の実に注意を向けて背後を取るといい、賢くなければできない芸当だ。

 つまり、コイツが噂のポケモン。
「……こいつは思った以上に楽しめそうだ。こいよ、ハッサム。俺と勝負だ」

 構えを取りハッサムと対峙すると、なぜか奴は顔を歪ませた。いや。笑っているのか。
 ハッサムも俺に習ってか構えを取り、鳴き声を発する。受けて立つと言ったところか。

「いくぞ」

 俺の声を合図に、両者同時に駆け出した。

 やはり奴の方が速い。先制はハッサムだった。視線と振り上げた鋏の先は俺の右肩。
 攻撃を予測し、左に身体を傾けて避けようとして――――左脇腹に衝撃。

 うめき声を飲み込み、俺は左手でハッサムの顔面に拳を叩き込む。
 同時に自分の脇腹を一瞥して舌打ちをする。

 とっさに腰を捻って直撃を避けたが、服は裂けて血が流れている。フェイントに引っかかったことが無性に悔しい。
 ハッサムを見れば、頬をさすり血の混じった唾を吐いているところだった。
 眼光がさっきより鋭くなっている。

「なかなかやるじゃねーか」
 笑いながらそんなことを言えば、ハッサムはまた距離を詰めてきた。

 今度は俺の番だ。

 タイミングを合わせて駆け出し、相手よりも先に掌底を繰り出す。
 狙うはこめかみ。
 
 頭から突っ込んできたハッサムは、俺の攻撃をもろに食らう。ポケモンが人体と同じ急所を持っているかなんて知らん。だが頭に攻撃を食らえばどんなポケモンでも怯む。

 思惑通りハッサムの体勢が崩れて、一瞬動きが止まる。できた隙は大きい。

 俺は拳を握り、思いっきり振りかぶって胸部を殴る。 幹に激突するハッサム。だが、まだ立ち続けていた。

 手応えが軽かったので驚きはしない。後ろに跳躍してダメージを減らしたようだ。 しかし、胸部に残る打撃痕は少なくないダメージを与えたことがわかる。

 幹を支えにして立っているハッサムは、傷ついた自分の体を見下ろしてほくそ笑む。

 あぁ、こいつは俺と同じ臭いがする。バトルではなく戦いが好きなんだ。

 侵入者の排除のためではなく、人間に憎悪し襲いかかるわけでもない。ただ純粋に俺との戦いを楽しんでいる。

 ふらついた頭を振るい、俺に再度挑もうと身構えるハッサム。  そんな姿に俺もまた笑みを浮かべた。

 もう一戦。
 そう思って足を踏み出しかけたその時。
 
 茶色い影が現れてハッサムを蹴り飛ばした。 突然の横槍にハッサムは何が起きたのかわからない様子だ。別の幹にぶつかったあと、地面に倒れ伏した。
 ハッサムにとっては突然のことだが、誰が蹴り飛ばしたかは俺はわかりきっていた。
 凄まじく間の悪い時に来たもんだ。

「サムラ! てめぇ何しやがる!」
 俺はこっちに向かって歩いてくるサワムラーに怒鳴り声を挙げる。
 すると挨拶だと言わぬばかりに廻し蹴りをしてきた。屈んで避け、同時に足払い。
 しかしジャンプで躱され、そのまま前方宙返り右かかと落とし。

「げぇ!」

 全力で飛び退くと、轟音が聞こえた。見返せば土がえぐれて、軽いクレーターができている。

「わお……」
 思わずアホみたいな声が出た。これは怒ってる。完璧怒ってる。

「おい、なんでそんな切れてんだ」

 俺が聞くとサムラは片腕を突き出してきた。そこにはポケギアがついている。
「これがどうした」

 そう言えばサムラはポケギアのボタンを一つ押した。雑音が鳴り響いたかと思えば、サカシタの声が聞こえてきた。

「あっ繋がった。サムラさんワイダさんに会えました? ワイダさん聞こえます!? 油売ってないで今すぐ戻ってきてください!!」

 緊迫したサカシタの声が聞こえてきた。なんだかポケギア越しに、ポケモンの鳴き声が聞こえてくるのは気のせいだろうか。  だが今すぐ戻れと言われても、ハッサムとの戦いがあるので無理だ

「俺は今忙しいから無理だ」
「……戻ってこないなら、買い置きの森のようかんを全部食べます」
「わかった。戻る」
「絶対ですよ!」

 そう言ってサカシタの方から一方的に切られた。サムラは腕を下ろして、両手で手話を始める。

「今回は、本気のようだ……だって?」
 読み解いた俺はサムラに確認すると、深く頷かれた。
 ――くそ、サカシタの野郎。あれを仕入れるのにどれだけ苦労したかわかってるのか。森のようかんは絶対ダメだ。あれを食われたら駐在所を壊さない自信がない。

 ハッサムには悪いが、戦いはひとまずお預けだ。サムラがぶっ壊したのもあるし、仕切り直しした方がよさそうだろう。思案していると、サムラがハッサムの方へと歩み寄って行く姿に気づいた。

「おい何する気だ」

 ハッサムは幹を支えにしなければ立てない様子だった。
 サムラを見て、忌々しそうに見つめている。

「ハッサムッ!」

 威嚇の声が響く中、サムラは飄々としており、何かを伝えているようだった。それから俺の方へと戻ってきたので、何をしたのか聞いてみる。
 
 するとサムラは手話で伝えてきた。  
 煽っといた、と。

「あぁ? よくわかんねぇぞ」

 ハッサムの方を見ると、ものすごい形相で俺の方を見ている。いや正確にはサムラか。

「おい、ハッサム。悪いが用事ができた。また今度再戦しようぜ」

俺はそう言い残し、サムラの方を向くとすでに姿がなかった。

「はっ?」

 気づくと遥か前方をダッシュで走っている。あの野郎、俺を置いて行くきか。  後方から聞こえるよろめいた足音。
 悪いなと思いながらも、俺は全速力で走りサムラを追った。
 
 この時、俺は休暇が入った日に、また訪れて会えばいいかと考えていた。
 見通しが甘かったと思い直したのは、それから勤務地に戻って4日後のこと。
 いつもどおりシロガネ山を巡回していたら、目が痛いほど真っ赤な姿のあいつが目の前に飛び込んできたんだ。

 ――――初めてのストーカー体験がポケモンって、どうなんだろうな?

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このブログについての説明は、Aboutをお読みください。
某小説サイトで書いてたものを移転させています。現在書き直し&連載中です。たまに一次創作も書いてます。
なお他小説投稿サイトと違う作品を投稿してます。

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