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巣箱

細々とポケモン小説を書き綴るサイトです。

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蜘蛛の巣の森(一) 迷い人

ジョウト地方の南側に位置する街、ヒワダタウン。その街から北西に広がるウバメの森の中に、小さな村が存在していた。その村の名はカンラビレッジ。

 半ば隔離された場所にあるためか、村には滅多に人が訪れない。訪れたとしてもほとんどの場合、森から迷い込んで来る人だ。
 今日も、この村に迷い人が訪れようとしていた。

拍手[1回]



 森の中で、歩いては立ち止まることを繰り返している男がいた。見た目二十代前半のその男は、背が低めで華奢な体つきをしている。パーカーに長ズボンといった軽装の服装をしていて、背中にはリュックをぶら下げていた。

 この男の名はサザメ。
 ヒワダタウンに住む友達の家に遊びに行くため森を歩いていたのだが、道に迷ってしまっていた。
「やっぱり慣れた道で行くべきだったか……この年で迷子とか笑えねーわ」
 サザメは茶色交じりの黒髪をいじりながら、この先どうするか考えた。引き返すにも慣れない道を行ったために、きちんと引き返せる自身がない。だからと言って、このまま進んでもますます道に迷うことになる。

「せめてヒワダタウンの方向か分かればなぁ」
 サザメはため息を吐きながら何気なく空を見上げた。
 遠くの方で、薄っすらと白い煙が空に上がって消えていくのが見えた。

「あれはもしかして炭焼き小屋の煙か!?」」

 上空に上がる白い煙をヒワダタウンの有名な炭焼き小屋の煙だと思ったサザメは、急いでその方向に向かって走り出した。
 煙に近づいていくにつれて民家と思わしき建物が木々の間から姿を見せる。それを見てサザメは胸を躍らせた。
 サザメは上を見上げたまま走っていたために、足元に転がる紺色の物体に気付かず思いっきりそれに躓いてしまった。

「うわっ!」

 サザメはとっさに地面に両手をついて、顔面からこけることを防いだ。
 何に躓いたのかと後ろを振り返ると、それはポケモンだった。特徴的な紺色の翼は乱れ、周りには抜け落ちた羽が散らばっている。
 白いおなかは薄いピンク色に染まっており、赤い顔には殴られた跡がはっきりとある。黄色いくちばしは細い糸状のもので固く縛られ、声を漏らすことさえ出来ないようにされていた。

「オオズバメがなんでこんなところに……」
 サザメは立ち上がり、驚きと困惑が入り混じった表情でオオスバメを見下ろした。
「おい、大丈夫か?」
 サザメはくちばしを縛っている糸を解き、オオスバメに話しかける。しかしオオスバメはまるで反応しない。このまま放っておけば野垂れ死にしてしまう。

 そう思ったサザメは、オオスバメを抱えて先ほどに向かっていた町に走り出した。
 街に着くと、サザメはそこがヒワダタウンではないことを知る。炭焼き小屋の煙と思っていたものは、民家の煙突から立ち上っていた。

 街並みはヒワダタウンとはどこか似ているが、民家の数が取り分け少ない。街と言うよりも、村と言った様子だ。
 戸惑いながらサザメは見知らぬ村の中に入り、ポケモンセンターがないか探した。村の真ん中にある大きな建物にポケモンセンターのマークがあったので、サザメはすぐに中に入った。
 サザメが中に入ると、カウンターのジョーイが笑顔で迎え入れる。
「こんにちは。ポケモンセンターにようこそ!」
「あのこいつすごい怪我をしているんです!」
 カウンターに駆けつけると、抱えているオオスバメを見せた。オオスバメの怪我の状態を把握した途端、笑顔だったジョーイの顔が瞬く間に真剣な表情に変わる。

「わかりました。今すぐ治療しますね。ラッキー!」
 ジョーイが叫ぶと、診療室のドアが勢いよく開かれ、中からストレッチャーを引いてラッキーがやってきた。
「お願いします」
 サザメはストレッチャーにオオスバメを下した。
 ラッキーは笑顔で頷くと静かにオオスバメを診療室の中に運んで行った。その後をジョーイが早足に追う。
 診療室のドアの上に診察中という表札が光るのを見てから、サザメは近くにあったソファに座った。

 診察中の表札の光が消えたのはそれから三十分後。
 ジョーイが診察室から出てきたのを見てサザメはソファから立ち上がる。サザメの姿を見てジョーイは笑顔で答えた。
「もう大丈夫ですよ」
その言葉を聞いてサザメは胸を撫でおろす。
ジョーイは、サザメのことを上から下までじろじろと見た後「あの、あなたのお名前を伺ってもよろしいですか?」と尋ねた。
「サザメと言いますが」
 突然名前を聞かれて、サザメは不思議い思いながら名乗った。それを聞くとジョーイは、カウンターから名簿表を取り出してそれを指でたどっていく。
「もしかして、サザメさんは迷ってここにきましたか?」
「えっ何故それを?」

 サザメはまだ何も言ってないのに、自分が迷ってここに来たことを当てられて狼狽える。
 エスパーの能力でもあるのかと見当違いのことを思っていると、ジョーイはくすくすと笑いながら理由を話す。

「村人は全員名簿で把握してますから、載っていなければ村人ではないということです。そういう人は大抵、迷ってここに来た人ですからね」
「俺以外にも迷ってここに来た人が居るんですか?」
「えぇ、月に二・三人は迷い込んできますよ。そういう場合に備えて案内人がこの村に居るぐらいですから」
 ジョーイの言葉に、サザメはカウンターに身を乗り出す。

「本当ですか? 案内人が居るんですか!?」
 サザメの食いつきぶりに、ジョーイは半ば引いた。
「えっえぇ、宿泊もできますから、宿も心配しなくて大丈夫ですよ」
「いや、宿はいいです。すぐにヒワダタウンに行かなくちゃならないんです」
「オオスバメの回復は明日までかかりますよ?」

ジョーイはそう言うと、サザメは首を振って自分の手持ちではないことを説明した。
「そうですか」
「はい。あいつ糸でくちばし縛られてたので、もしかしたらイタズラされたのかも」
「糸で縛られた……」
ジョーイは神妙な顔でサザメの言葉を反復する。
「分かりました……ではオオスバメは野生なのですね? そしたらこちらで自然に返しておきますね」
「本当ですか? ありがとうございます!」

 ふとサザメは時間を確認したくなり、周りを見渡して時計を探した。入り口付近の壁に飾ってあるモンスターボール型の時計を見てサザメは青ざめた。
「あの時計ってあってますよね?」
「もちろん。あってますよ」
 サザメはその場で頭を抱えてうめいた。時計の針は約束の時間を指していたからだ。

「完璧に遅刻だ……」
「ここを出て右に曲がると、瓦屋根の家がありますから、そこに住む人に頼めばヒワダタウンまで案内してもらえますよ」
 ジョーイは落胆しているサザメを見て、気の毒に思ったのか案内人の居る場所を教えてくれた。

「わかりました。ありがとうございます」
 サザメは重い足取りでポケモンセンターを後にした。言われた通り右に曲がると確かに屋根瓦の家があるのだが、何故だか入りづらい空気をサザメは感じた。

 普通の家のはずなのだが、門に掲げてある看板のような表札が妙に違和感を放っている。――本当にここで会ってるのだろうか。サザメは、ジョーイが右と左を間違ったのではないのかと疑ってしまった。
 もう一度聞くか、思い切って尋ねてみるかで悩んでいると、中から声が聞こえてきた。
「ヒワダに連れて行ってよ!」
 誰かにせがんでいる、男の子の声が響く。
 すると戸が開かれて、家の中から深緑色をした作業着を着た長身の男が出てきた。その横で短パン姿をしたわんぱくそうな男の子が、「ねぇねぇ」と言いながらズボンを引っ張っている。

「だーかーら! おじさんは忙しいんだよ」
見た目二十代後半の作業着の男は、ぼさぼさ頭をかきむしりながら男の子を見下ろした。
「やだ、ヒワダ行きたい! ヤドンに触りたい!」
 男の子は作業着の男のズボンをつかんで、喚き散らす。
「ヤドンならノジリのおばさんが持ってるだろ」
「あれ違う! ヤドラン! 尻尾触れない!」

男の子は作業着の男がヤドンとヤドランを間違えたことに怒ったのか、その場で容姿の違いについて説明し始めた。
「どっちも同じようなもんだろ。たくっ……ん?」

 作業着の男はその場に突っ立ているサザメの姿を見ると、眉間にしわを寄せる。
「あっあのっ」
 サザメは作業着の男と目が合ったので、喋ろうとしたが言葉が詰まってしまった。
作業着の男の目つきが悪かったのが原因だろう。

「あんた……」
 サザメをしばらく見つめてから、作業着の男は突然深いため息を吐いた。
「カンタ、今日だけ特別だぞ」
「本当に?」
ズボンを引っ張って駄々をこねていた男の子は、目を輝かせる。
「ただし、すぐに帰るからな」
 カンタと呼ばれた男の子は頷くと、飛び上がって喜んだ。

「あんた、この村に迷い込んできたやつだろ? 俺がヒワダまで案内してやるよ」
 サザメの方を向いて、森の方を親指で指しながら作業着の男は言った。
「えっあの」
 サザメが戸惑っているので、作業着の男は苛立つように舌打ちをする。
「なにまごまごしてんだ。ついて来いよ」
 作業着の男は足早に森に向かっていった。男の子もスキップしながら嬉しそうにその後をついて行く。
「なっなんでわかったんですか? 俺何も言ってませんよ?」
 サザメは後を追いかけながら、作業着の男に質問する。

「あんたここいらじゃ見ない顔だ。それにそこで突っ立てるってことは、ジョーイさんに言われてここに来たんだろ?」
 全くもってその通りだったので、サザメは頷くことしかできなかった。どうやらこの男がジョーイの言う案内人のようだ。
 サザメは案内人と言われ、旅先案内人のような人をイメージしていた。しかし作業着の男はどう見ても、それとかけ離れている。

 案内も荒く人道を行くどころか、進んでけもの道を歩いていく。
 草むらをかき分けて歩く作業着の男に置いてかれまいと、サザメは必死に付いて行った。
「ヒワダタウン。ヤドンがいっぱいヒワダタウン!」
 歩くことだけで苦労しているサザメを差し置いて、カンタは山道に慣れているのか一人突っ走っていた。
「おーい、ずっこけんなよ」
 先走るカンタに、作業着の男が軽い口調で忠告する。サザメはけもの道に慣れている二人に驚愕していた。
「……あのー」
「なんだ? 早いか?」

 作業着の男は足取りを遅くして、サザメと並んだ。
「あっいえ、大丈夫です。それよりあの村って名前なんて言うんですか?」
「カンラビレッジ。小さな村で驚いたか?」
「いえ、小ささよりも森の中に村があることに驚きました」

 サザメは、今までウバメの森近辺で人が住んでいる場所と言えばヒワダタウンしかないと思っていた。
「だろうな。ヒワダタウンに住む人も知ってる奴が少ないぐらいだからな」
「けどおかげでこうやってヒワダタウンに無事着けます。ありがとうございます」

 サザメが礼を言うと作業着の男は照れ隠しするように手を横に振る。
「礼なんていいよ。それより今度から迷わないように気を付けてほしいもんだ」
「以後気を付けます……」
「本当に気を付けてくれ。この辺はポケモンの縄張りがあるから、不用意に入ったら怪我するぞ」
「えぇ?!」
 サザメが声を上げて驚いていると、カンタが気になる言葉を発した。

「それって蜘蛛の巣の森のこと?」

「――――カンタ」
 急に作業着の男の顔が怖くなる。それを見てカンタはびくつき、顔をうつむかせた。
「蜘蛛の森って?」
 サザメが気になって聞くと、作業着の男は取り繕うように笑う。
「ただの言葉のあやだ。あの村の東側に、蜘蛛の巣のように枝が生えている木があるんだ。俺たちはそこを、蜘蛛の巣の森って呼んでいる。薄暗いから滅多に地元の人間でも近づかないけどな」
「へぇ、見てみたいですね」

 サザメの言葉に男は首を振った。
「やめておけ。そこには縄張り意識の強いポケモンもいるんだ。下手したら怪我じゃ済まさないぞ」
「そうなんですか……もしかして、あのオオスバメはそのポケモンにやられた可能性もあるのかな」
 サザメがうわごとのように言うと、作業着の男が反応する。

「オオスバメ?」
「村に来る途中、糸で縛られたオオスバメが居たので助けたんですよ」
「あんた、その周りに他のポケモンがいたりしなかったか?」

 作業着の男は確認するように聞いてきた。
「見てないですよ」
「そうか。ならよかった」
「よかった?」
「っと、話してある間に着いたぞ」

 作業着の男の言うとおり、ヒワダタウンの名物、ヤドンの井戸が見えた。
サザメは作業着の男が言った気になる言葉など頭から吹き飛んだ。
「着くの早っ!」
 喋りながら歩いていたとはいえ、サザメはこんなにも早くヒワダタウンにつくとは思っていなかった。
「近道したからな。ちゃんとした道を行くと、もう少しかかる」

「ヤドーン! やふぅぅぅぅぅぅ!」
 井戸の近くにお目当てのヤドンが居るのを見つけ、カンタは奇声を上げながら走っていった。
「あの子、ヤドンが本当に好きなんですね」
「ヤドンのしっぽが目当てらしいがな」
「なるほど……」
 目的はそっちか、とサザメは苦笑いを浮かべた。

「さて、案内はここまででいいかな?」
「あっはい、ありがとうございます!」
 サザメは頭を下げてお礼を言った。
「いいよ別に。それよりもう二度と迷わないように気を付けてくれよ」
「はい、今度からはちゃんと慣れた道を歩きます」

 サザメが理解してくれたことを確認すると、作業着の男はヤドンを撫でているカンタに向かって叫んだ。
「おーい、帰るぞ」
「え!? 今来たばっかりじゃん!」
 ヤドンに眺めて表情を緩めていたカンタは目を点にさせる。
「すぐに帰ると言っただろ」
「早すぎるよおじさん!」
 カンタは悲痛な声を上げた。

「うるさい、ヤドン触ったんだろ。お前のお母さんに知られたら俺が怒られるんだ。察しろ」
「いやーだー!」
 カンタはヤドンに抱き着いてその場から動こうとしない。
「こいつ!」
 作業着の男はカンタに近寄ると、ヤドンから引き離して左脇に抱えた。
「いやだいやだー!」

「うるさい!」
 作業着の男はカンタの頭を軽く小突く。カンタは泣きそうな顔をしてキコリを見上げる。
 キコリはそれを無視してサザメのところまで戻った。
「そんじゃ、俺たちは帰るから」
 作業着の男はそう言うと、先ほど来た道に向かっていった。

 サザメはふいに、作業着の男の名前を聞いてないことを思い出した。
「あの、最後に名前窺っても良いですか?」
「名前?」
「はい、俺サザメって言います」
 サザメが自己紹介すると、作業着の男は歯切れの悪いもの言いをする。
「あぁー俺はだな……まぁ……キコリって言う」
「キコリさんですか?」

 サザメが含み笑いをするので、作業着の男は眉間にしわを寄せる。
「そうだよ、キコリだ。なんだその顔は」
「あっいえ、すいません。キコリさんどうもありがとうございました」
「じゃあな」
 ぶっきらぼうに別れを告げると、キコリは男の子を脇に抱えたまま森の繁みに入っていった。


 サザメはその後ろ姿を見送ったあと、ヒワダタウンに住む友達の家に走って向かった。約束の時間は二時だが、街に設置してある時計は三時十五分を指していた。

 一時間以上の遅れである。サザメが友達に怒られたのは、言うまでもなかった。

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このブログについての説明は、Aboutをお読みください。
某小説サイトで書いてたものを移転させています。現在書き直し&連載中です。たまに一次創作も書いてます。
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