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巣箱

細々とポケモン小説を書き綴るサイトです。

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蜘蛛の巣の森(二) 樵

ウバメの森の中にひっそりと存在する村、カンラビレッジ。
 自然豊かで静かなその村には、不思議な言い伝えが存在していた。
 「鳥が鳴くと、蟲がわく――――」

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「――この虫がわくって、どういう意味なのかな?」
 ポケモンセンター内にある図書室の中で、女の子は自分が持っている薄い本を、隣にいる男の子に見せながら言った。
「俺が知るかよ。つかそれ、俺たちが探しているのと関係ないじゃん」
 男の子は女の子の言葉を一蹴すると、見ていた分厚い古い本のほうに視線を移す。ページをめくると、仏頂面だった男の子の顔がぱっと明るくなる。
「おっあったよ! セレビィの話やっぱこれに載ってた!」
「本当に?!」

 女の子は、持っている薄い本を机の上に置いて、男の子が読んでいる本を覗きこんだ。
「待って、借りてから児童室でゆっくり読もうよ」
 男の子はそう言って、本を持って図書室を出るとカウンターに居るジョーイの元に駆け寄った。
「あっ私も行く!」
 女の子は慌てて男の子の後を追いかけた。


 ここカンラビレッジのポケモンセンターは、他の施設と違い図書室が存在している。ジョーイさんに専用のカードと本を渡すことで、貸し出しできるシステムになっている。

 それだけでなく、このポケモンセンターには保育施設があり、朝から子供たちが元気に走り回る光景が見られる。
この村では出稼ぎに行く親が多く、子供たちが家でさびしく留守番していることが多かった。
 小さな村だからこそ、村全体で子供たちの面倒を見ようという村長の意見により、保育施設が設備されたのだった。ポケモンセンター内にある理由は、ポケモンたちと触れ合えるほうが子供たちも喜ぶと言う、親たちからの要望だ。


 先ほど子供たちがいた図書室に、浅葱色の作業着を着た男がやってきた。
 女の子が戻し忘れた本を見つけると、手に取って棚に戻そうとする。ところが、表紙を見るや否や棚に戻すのを止め、本を見つめた。
 珍しいことにこの本には、表紙に題名が書かれておらず、挿絵しかない。しかしその挿絵も、何が描かれてあったかわからないほどに、ひどくかすれていた。

 作業着の男は、その場でぱらぱらと本をめくり上げ、流し読みをする。
「……まだ残っていたんだな。この本」
 作業着の男はそう小さく呟くと、静かに本を棚の中に戻した。


図書室から出るとカウンターに居るジョーイと目が合う。
「あっキコリさん、ちょっと良いですか?」
「なんです?」
 ジョーイに呼ばれたので、作業着の男はカウンターに立ちよった。
 作業着の男が来ると、ジョーイは、周りを見渡し誰も居ないことを確認してから小声で囁いた。

「昨日オオスバメが運ばれてきたのですが、連れてきた方によると糸に縛られていたらしくて……」
「あぁ、聞きました。多分あいつらの仕業でしょう」
“あいつら”という言葉に、ジョーイは不安な表情を見せる。
「大丈夫ですよ。巣に間違って入り込んだから攻撃されたのでしょう。怖がる必要は無い」
作業着の男はジョーイを安心させるように言った。
「……そうですよね。わかりました」
「また何か気になることがあったら、教えてください。ではまた」
 作業着の男はジョーイに手を振ると、ポケモンセンターを後にした。
キコリと呼ばれたこの男は、名前と同じ(きこり)の仕事をしている。職業上森のことに詳しいからか、森で何かあるとキコリに相談するのが村の常識となっていた。

 キコリは、村の中で一番森に近い小屋に向かった。そこに彼は住んでいる。
 小屋の中に入ると、座布団の上でポケモンが寝ていた。頭には三本の毛が立っていて、大きな黄色いアヒル口からよだれがたれている。翼で葱を抱えて丸まっている姿を見て、キコリはそろそろと近寄った。キコリが声をかけて起こそうとした時、ポケモンが目を覚ました。

「……カモネギ、準備はいいか?」
 キコリが聞くと、そのポケモン――カモネギは頷いて起き上がり、キコリの足元に寄り添った。
「じゃあ、いくぞ」
 キコリは、カモネギを連れて小屋から出る。

 森の入口まで行くと、地面に散らばっている白い糸の切れ端が目に入った。昨日、ポケモンセンターに連れて来られたオオスバメが倒れていた場所だと、キコリは思った。
 それを見て、何故かため息を吐く。

「――それって、虫ポケモンの糸ですよね?」
 突然背後から話かけられたのでキコリは驚いた。
 振り返ってみると、ジーンズにワイシャツ姿という、ラフな格好をした青年が立っていた。
「何か縛られていたんですかね?」
 驚いているキコリに、青年はなおも話しかけてきた。

「あっあぁ、オオスバメが縛られていたらしい」
 実際はくちばしを縛られていたのだが、キコリはそれを省いて説明した。
「えっ? 本当なんですかその話! 虫が鳥を捕まえたってことですか?」
 青年は信じられないと、目を丸くしている。
「さぁ。それは知らん」
 話が違う方向に行きそうになるのを感じて、キコリは話をはぐらかす。そして、キコリは話とは関係ないことで悩んでいた。
 この青年が迷い人か村人なのか、判断がつかなかったからだ。
 キコリは青年が見知らぬ顔だったため、最初は迷い人だと思っていた。しかし、服装を見るかぎりでは、森を歩く姿ではない。そして村の方からやってきたので、ことさら判断がつかなくなっていた。

 キコリがそんなことを考えているとは露知らず、青年は淡々と話を続けていた。
「あいつの話本当だったんだ……。なんか怖いですね」
「俺はそれほど気にしてないけどな」
「え……?」
 キコリの言葉に青年の顔が強張る。

「縄張りに入ったのを撃退されたんだろう。逃げてきて、村の前で力尽きたと思えば不思議じゃない」
「まぁ確かにそうですけど……」
 それでも青年は少し不服そうだった。


「――なぁ、あんたは村人か?」
 キコリは思い切って青年に確認してみた。青年は、はっとして手を叩く。

「すみません。自己紹介していませんでしたね。僕は今日ここに引っ越してきた者で、コナーと言います」
 青年――コナーはお辞儀をして、キコリに挨拶をした。つられてキコリも軽く会釈する。
「今、村の人にあいさつ回りをしているところなのですよ」
「そうだったのか」
 引っ越してきたばかりの住人なら、顔を把握してなくて当然だと、キコリは心の内で納得する。

「はい、あっもしかしてお邪魔でしたか?」
「あーまぁ、今から仕事に行こうと思っていたところだ」
 曖昧な返事でキコリは言った。流石に面と向かって邪魔だったと言うのは、キコリでなくとも気が引けることだろう。

「お仕事は樵ですか?」
 キコリの足元に居るカモネギを指して、コナーは聞いてきた。
「そうだ。……そんでもって名前も同じキコリだ。よろしく」
 キコリはぶっきらぼうに自分の名前を教える。
「あっはい、よろしくお願いします!」
「じゃあ、またな」
 キコリは会話に見切りをつけて仕事に行こうとした。

「あっあの、僕もついて行ってよろしいでしょうか?」
 思いもよらぬ申し出に、キコリは歩めていた足を止めて振り返る。

「はぁ?」

 キコリの低い声を聞いて、コナーは思わずしり込みする。
「えぇっえっと、本当は聞きたいことがあって、会いに来たのです。
だけど今から仕事に行くんですよね……? だから歩きながらでも良いので、聞いてほしいんです」
 つっかえながらコナーはなんとか理由を説明した。話を聞いてキコリは眉をひそめる。

「急ぎの用か?」
「できれば、今すぐ聞きたいです……」
「話は長いか?」
 コナーは少し間を置いて、キコリの表情を窺うように答えた。
「多分長くなるかも……です」

「なら今ここで質問を聞いてやる」
 キコリの言葉にコナーは戸惑う。
「けど、今から仕事行くんですよね?」
「俺が行こうとしている場所は森の中だぞ。質問終わったとき、森の中を一人でここまで帰れるのか?」

 コナーは少し考えてから、自信なさ気に、多分大丈夫だと答えた。当然そんな答え方をされては、連れて行くわけにはいかない。
「素直に無理と言ってくれ……、それで質問はなんだ?」

 さっさと質問に答えて仕事に戻ろうとキコリは考え、急かすようにコナーに聞いた。コナーは言葉を詰まらせながら質問をし始めた。
「えっえーと、その、僕ピジョンを手持ちに持っているのですが、この村って飛行タイプを持ってはいけないってルールとかありますか?」
「そんなルールーはない。俺を見ろよ。カモネギを持っている」
 キコリは指先でカモネギを指し示した。カモネギも、頷いている。
「ですよね……。僕引っ越した日、向かいの家に住む人にこう言われたのです。飛行タイプを村に持ち込むなって。それももの凄い怖い顔で」

「あーそれは多分、ノジリのおばさんだな。気にするな。あの人は飛行タイプが嫌いなだけだから。俺も言われたことあるよ」
 キコリはしゃがんで「そうだよな?」とカモネギに語りかける。
 カモネギは嫌な顔を示していた。キコリは、機嫌を損ねたカモネギをなだめるように頭を撫でた。

「だけど、この村の人って飛行タイプを持っている人が極端に少ないですよね? 昔、飛行タイプで何かあったとか、そういう逸話ありませんか?」
「その手の話なら、俺より村長のほうが詳しい」
「村長さんにはもう聞きました。だけど、何もないよって言われました」
「なら気にすることはないだろ」
キコリは、コナーが思い悩む理由がわからなかった。
「けど……、最後に村長さんは、ピジョンを森に放すことは止めなさいって言ったんです。何もないならどうして忠告するんですか?」
 今まで淡々と質問に答えていたキコリだが、この時初めて言葉を詰まらせる。コナーは不安げな表情でキコリの言葉を待った。
「……それは、奴らの縄張りに誤って入り込まないよう、忠告したんだな」
「奴らの縄張り?」
 コナーは首をかしげた。

「村長の言葉足らずだな。この村から東側にある森には、縄張り意識が強いポケモンが居るんだ。そいつらの縄張りに入ると襲われることがある」
「それって蜘蛛の巣の森のことですか?」
 キコリはコナーの口からその言葉が出てくると思わず、目を丸くする。
「……どこで、それを知った」

「えっと、サザメって男を覚えていますか」
「サザメ? あぁ、昨日案内した奴の名だな、なんで知っているんだ?」
「僕、そいつと友達なんですよ。昨日あいつからこの村の話を聞いたんです。ちょうど引っ越す村だったので色々と聞きました」
「そうか」
「半信半疑でしたが、どうやら本当に危ない場所みたいですね……
「まぁな、けど心配するな。そう簡単に入り込める場所ではないからな。ただ、飛行タイプだと話は違う」
……あっ! そうか、空からだと地形なんて関係ないから」
 キコリは頷いて説明を付け足した。
「お前の言うとおり、空だと知らない内に縄張りに入りこんでしまう事が多い。縄張り意識の強いポケモンは、空でさえも領域を侵されることを嫌がると言うからな。そのせいでやられた野生のホーホーを見たことがある」
「そうなんですか……
 コナーはピジョンが襲われる様子を想像したのか、ぶるっと震えた。
「まっ、ポケモンが勝手に森に行かないよう、管理してれば別に問題ない訳だ」
「そっ、そうですよね! けど、だったらそう説明してほしかったなぁ……
 コナーは深いため息を吐いた。

「村長は気を使ったんだろ。引っ越した矢先にそんな話されたら、不安だろ?」
「それはまぁ、そうですけど……不用意に東に行かなければ大丈夫なんですよね?」
 もう一度確かめるように、コナーは聞いた。

「あぁ、それさえ気をつけてれば問題ない。で、他に質問は?」
「あっいえ、それだけです。ありがとうございました。疑問が無くなりました!」
 コナーはお礼を言うと、軽い足取りで村に戻っていった。

 キコリはやっと仕事に行けると、小さく吐息を漏らした。


 ――ウバメの森奥地――

 コナーと別れてから、キコリはウバメの森の原生林が広がる奥地に足を運んだ。
薪を取るため、キコリはどの木を切り倒すか観察する。
 高くそびえ立つ木々の間を歩き回った後、切り倒す木を決めた。
「カモネギ、この木をいあいぎりで倒してくれ!」
 叫びながらキコリは指先で倒す方向を命令するとカモネギはそれに従って葱を振り、いあいぎりで木を根本から切り倒す。
キコリの指示した方向通りに木は倒れされた。

「きゃあ!」
 木が倒れるのと同時に人の叫び声が聞こえたので、キコリは焦った。

 叫び声が上がった場所に急いで向かうと、倒れた木の手前で女性が尻餅をついていた。
倒木に巻き込まれていないことを確認し、キコリは安堵する。

「大丈夫か?!」
 話し掛けると、キコリは女性にきっと睨まれた。

「あっあなたね! 木を倒したのは! 危ないじゃない!」
「すまない。こんな所を歩く人間なんていないと思っていたから。

「何よそれ、おかしくない?!」
女性は憤慨しヒステリーに叫ぶ。
「普通は人が通らない道だからいないと思っていたのだ。本当に悪かった。……それと、話変わってなんだが、あんた迷子か?」
 女性のミニスカートにロングブーツという姿は、どう見ても森を歩く恰好ではない。しかし女性は、眉を吊り上げて、きつい口調で否定する。

「違うわ。探しものをしているだけよ」
「探しもの?」
「あなたには関係ないわ」

 女性は立ち上がり、スカートについた土埃を払うと、踵を返してどこかに行ってしまった。キコリは女性の後を追おうとしたが、姿を見失ったので諦めて作業に戻ることにした。

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